「そうだったと、俺も思う。

 でも何かのイタズラで

 俺と香澄は再会し、

 そしてあの頃の―――

 大学時代の気持ちへ

 すっかり染まってしまったんだ。

 俺の気持ちは香澄に、

 香澄の気持ちは俺に」


「それは、

 お前の勝手な思い込みだろう?

 香澄ちゃんの気持ちは、

 婚約してからずっと

 俺に向き続けているんだ。

 そうだよね、香澄ちゃん」


ぜぇぜぇ、と肩で息をしながら

大声でまくし立てる川尻に、

呼びかけられた香澄の身体は

小刻みに震えている。