……その時だった。

俺の後ろでトン、トン……とボールが弾む音が聞こえた。


「ったく……しょうがねぇな」


その声に驚いて俺は勢いよく振り返った。


「蓮……」


蓮はドリブルをしていた手を止めると、俺の顔を見て笑みを浮かべた。


「俺が特訓してやるよ」

「……蓮?」

「いつまでもキャプテンが試合に出ないわけにはいかねぇだろ。
とばっちり受けるの、俺だし」


蓮……。


「岬」

「え?……わっ……」


蓮が持っていたボールを栞奈に投げた。

慌てて栞奈がそれをキャッチする。


「それ持って見てて。
大和が俺にボロカスにやられるとこ」

「誰がボロカスになんか……」


反論しようとした俺を見て、蓮がニヤリと笑った。


「……それぐらいやる気出してもらわなくちゃな」


……高校に入って、迷わずバスケ部に入って。

そこで出会ったのは……蓮。


蓮は何だかんだ言って俺を支えてくれた。

副部長として、部員として……そして、親友として。


「絶対負けねぇから!」

「……久々だな。
その大和のバスケ馬鹿すぎる顔」

「お前だってそうだろ」

「俺はもうちょっと上品ですー」

「それじゃあ、俺が下品みたいじゃねぇか」

「まぁ……上品ではないな」

「ちょっ……おい、蓮!」



朝。

たった三人しかいない体育館。

なのに、なぜか騒がしくて。

バスケそっちのけで言い合いをする俺達。

そんな俺と蓮を微笑ましそうに見つめる栞奈。


またいつもの日常が……ありきたりだけど、かけがえのない日常が……戻ってきた――