「生まれてからずっと大和のそばにいて。
いつも大和に振り回されて。
……バスケを始めてからもずっと大和のそばでサポートしてくれてたのは栞奈だろ」

「……………」

「大和は……そんな栞奈に一度でも感謝したことがあるのか?」

「それは……」

「心の中で思ってるだけじゃダメなんだよ。
ちゃんと言葉で伝えなきゃ」


……思えば、本当に栞奈はいつもそばにいてくれた。


暁弥と仲違いした時も、中三の春に俺が部活に顔を出さなくなった時も……。

俺が辛い思いをしていた時は……いつもそばにいてくれた。


でも、俺はそんな栞奈に感謝したことなんて……一度もない。


心の中ではもちろん思ってるよ。

でも、言葉で表したことは……ない。


「栞奈がマネージャーとしての自信を失ったのだって……全部そういうことの積み重ねなんじゃないか?」

「っ……………」

「少しはそばにいてくれる人のありがたみを感じるべきだな」


……ハル兄の言葉は重たくずっしりと俺の心に響いた。


……俺は何も答えずにリビングを出た。

ハル兄はそんな俺の背中をじっと見つめていた――






大和が出て行ったあとのリビング。

一人になった陽斗のところへ、ひょっこり大和の兄の稜が現れた。


「ハル兄も世話焼きだね~。
大和に説教するためにわざわざ家に来るなんて」

「稜、お前いつの間に……。
……でも、何かほっとけないんだよな。
大和って」

「ハル兄に似てるからじゃねぇの?
バスケ馬鹿なとことか」

「……そうかもな」

「でも、まぁ……ハル兄の気持ちはアイツに伝わったと思うよ。
今の、ハル兄の経験談だろ?
七海さんと離れた時の」

「……あの時は、まさか離れるなんて思ってなかったからな。
だから……大和には今そばにいる人の大切さを知ってほしい」


陽斗は大和が出て行ったリビングのドアの方を見ながら……優しく微笑んだ。