「……何かメッチャ疲れた」

「嵐みたいだったね。
あの人」


その日の帰り道。

俺と栞奈は並んで歩いていて……俺はグダッとしていた。


「でも、チワワちゃんは納得いかないな。
あたし、もっと大きいもん」


……多分身長のことだけを言ってるわけじゃないと思うけど。


「栞奈」

「ん?」


栞奈がこっちを向く。

俺の方が背が高いから、自然と上を向く形になる。


……ほら。

まんまチワワに見上げられてるみたいだ。


そっくりなんだよ、チワワに。


「チワワって可愛いだろ?」

「うん。可愛いよね。
あたし、好きだよ」

「だから、アイツはお前が可愛いって言ってたの。
分かる?」


……すると、栞奈は何か思い付いたような顔をして俺の方を見た。


「でも……大和もたまに言うよね。
チワワみたいって……」

「っ………それは……」


……いつもは鈍いクセに、こういうとこはよく突いてくるんだよな。

本当……困る。

けど………


「……俺も思ってるよ。
お前が可愛いって……ずっと前から」


お前のことを一番よく分かってるのは俺だ。

小さい頃からずっと一緒にいて……どんなことでも知ってる。

その表情も……全部。


栞奈は真っ赤な顔をして俺から目をそらした。


「……そういうとこも可愛いよ」

「大和にそんなこと言われたのなんて……あんまりないもん」

「言わせたのは栞奈じゃん」

「……イジワル」


照れ隠しのように下を向いた栞奈の頭を優しく撫でた。

すると、栞奈は真っ赤な顔を上げて俺の目をじっと見つめた。


「……今日はもうちょっと大和と一緒にいていい?」

「………え?」

「……離れたくない」


……珍しい栞奈のワガママ。


……俺の心臓が持たなくなりそうだ。


「……じゃあ、家来る?」



別に家に行ったって特に何をするわけでもないけど。


ただ……一緒にいたいだけ。


「……うん」


ゆっくり頷いた栞奈の手を握り……二人並んで家路を歩いた――