「では近いうちに必ずお伺いします!くら子さまにそうお伝えしてくださいね!」

 「わかった。じゃあな」



 口を尖らせたまま、それだけおっしゃって、こちらに傘をくるりと向けたかと思うと、下駄を踏み鳴らして水音をたてながら、利勝さまは足早に帰ってゆく。



 「あいつ……素直じゃないな」



 兄さまが苦笑しながらおっしゃった。



 「あいつはあいつなりに、お前の足を心配しているんだ。
 お前が“足が痛む”と、それを行かない理由に使うから。
 自分のせいでケガをさせたと、責任を感じているんだよ」

 「え……」



 そんな……ケガは私が悪いのに?


 ………やっぱり優しい人だ。


 そうよね。くら子さまとさき子さまの同じ血を引いているのだもの。


 素っ気ないけど、優しい人。


 私はもう見えなくなった、利勝さまの背中を思った。



 ―――永瀬 雄治さま。



 心に、その名前を刻む。

 永瀬(ながせ) 雄治(ゆうじ) 利勝(としかつ)さま。

 それが、あなたの名前。



 ―――梅雨はもうすぐ明ける。


 梅雨が明ければ、眩しい陽射しの夏がくる。

 そしたらもっと、外に出ることにしよう。

 会いたい人に、自分から会いに行けるように。