それなのに……私ったら。

 嘘つかれたと勘違いして、ひとりで勝手にいじけて。

 なんだか恥ずかしい。



 「……どうして私に、そんな大切な名を教えてくれたんでしょう」



 訊ねるというより思わずつぶやいた私に、さき子さまは少し思案顔をなさった。



 「そうねえ……。きっとあの子は、初めて家族以外の、人様のお役に立てたんだわ。
 それが自分でも誇らしくて、つい自分に物語の英雄を重ねたんじゃないかしら。
 だから『利勝』と名乗ったんじゃない?……これは私の勝手な想像だけどね」



 そうおっしゃって、そんな弟君を思いながら、さき子さまは優しく微笑む。



 そういえば利勝さまは、名を名乗ったとき、どこか照れてるご様子だった。

 あれはそうゆう意味だったの?


 ―――困っている人を、助けてくれる英雄。

 利勝さまは私にとって、まさにそれだわ。

 ただ、道に迷った私を、家まで導いてくれた。

 そんな些細なことだけど。



 それでも私には、感謝してもし足りないくらい有り難いことだったから。



 『利勝』さま。



 私を助けてくれた―――英雄。