あ〜あ……。
私もくら子さまやさき子さまと、時間を気にせずおしゃべりしたかった。
けれど 利勝さまの迷惑そうなお顔を思い出すと、とても行く気になれなかった。
だってこれ以上、利勝さまに嫌われたくないもの。
玄関のほうで物音がした。
母さまがお戻りになられたのだとドキッとしたけど、不調法にも そのまま縁側から動かずにいたら、
「……なんだ。お前行かなかったのか?」
兄さまの声が聞こえて、私はまたドキッとした。
お戻りになられたのに出迎えもしなかったことを、叱られてしまうかしら?
兄さまのほうが先にお戻りになられるなんて。
母さま、くら子さまとのお話がはずんでいらっしゃるのかしら?
楽しくて時間を忘れて、長居しておられるのかしら?
込み上げてくるものがあって、目のふちにうっすらと涙が溜まる。
………私も、一緒に行きたかった。
いいえ。やっぱり行かなくてよかった。
だって兄さまがお戻りになられたということは、今ごろ利勝さまもご自宅へ戻られたはずだもの。
一緒に行っていたら、利勝さまと鉢合わせして、また迷惑がられてたわ。
行かなくてよかったんだ。きっと………。
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