まつの恋。兄さまの恋。そして……私の恋。
結局どれも、報われることはなかった。
手を取り合って、幸せを喜べることはなかった。
だからといって、しなければよかった恋なんて、どれひとつだってない。
心にほのかに残る、この温もりがあるから。
あなたがくれた温もりは、大切な思い出となって深く心に刻まれているから。
後悔なんてないの。
それは私たちが、確かに生きてきた証だもの………。
朝日が昇り、辺りが明るくなる頃、朔じぃも起きてきて働きだす。
おさきさんや母さまも起きてきた。
そして弥平太さんや吾郎ちゃんが起きてくると、皆で朝食をいただく。
献立は田作りがほんの少しとかぼちゃ、稗や粟の混ざった玄米。それと大根汁。
その中にあの色の悪くなった青菜のお浸しも含まれていたけど、誰も文句を言わずに食べてくれた。
まつが私たちのために振る舞ってくれた、ありがたい朝食。
「やっぱり布団で休むのはいいわね!昨夜はぐっすり寝られたわ!
ご飯も格別に美味しいこと!今は家を焼かれて、満足に休むことも食べることもできない人が大勢いるんですもの。私達は幸せね!」
おさきさんが明るく笑って言った。
痛いほど身に沁みる。
普段の暮らしが、どれだけ幸せだったかを。
けして贅沢はできなかったけど、家族みなが揃って、いつも一緒に笑いあえた。
家族がいて。お友達がいて。そして利勝さまがいて。
つつましくも穏やかで 幸せだった日々。
もう 戻れない。
朝食を済ませて、後片づけを手伝う。
それが終わると外に出た。
空を見上げて立ちつくす。
遠くからは絶え間なく轟く砲弾の音。
戦争はまだ終わらない。
その音を哀しく聞きながら、お城にいるだろうくら子さまやさき子さまの安否を思った。
利勝さま。私も、必ず約束を果たします。
あなたが約束を守って下さったように。
しばらく空を見つめ続けた。
利勝さまと兄さま達が駆け昇っていった
この空を。
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