この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜




 まつは一度目を伏せたあと、ふふっと笑う。
 そうして私に言った。



 「永瀬さまはすごいですね」

 「え……?」

 「ゆきさまをこんなにも、脆くも強くもさせてしまう。それが恋の成せる技なのでしょうか」



 私は目をしばたたく。けれど。

 利勝さまはすごい―――私もそう思った。

 利勝さまだけが 私の心を満たしてくれる。
 心をあたたかく灯してくれる。

 そうして私を 強くも弱くもさせる。



 まつは私に微笑んだ。



 「ゆきさま。私は奥方さまとゆきさまをお迎えに行ったあの日、
 命を絶とうとする奥方さまに向かって、永瀬さまとの約束のために生きたいと訴えるあなたさまの切なるお心が、
 私は……本当にうれしかったのでございます」

 「え……?」



 なぜ?と驚く私に、まつはいたずらっぽく笑いながら、



 「なぜって……誰かに手を差し延べてもらわなければ、ひとりでは何もできなかったあなたさまが、ご自分からはっきり意志を示して、何かを成し遂げようとなさるんですもの。

 “ああ、ゆきさまのお心にある永瀬さまへの想いは、私に聞かせてくださったあの頃から、少しもお変わりないのだわ”―――そう感じました」



 私はまつを見つめる。


 ………だってそれは。

 それはまつが、この恋を応援してくれたから。
 想い続ける勇気を与えてくれたから。

 それに私には、それくらいのことしか出来なかったから。



 「たとえ親に逆らおうと、一途に想いを貫こうとなさるあなたさまのひたむきなお姿は、私にはとても眩しく見えました。
 私には……そんなふうに想いを貫くことはできませんでしたから」


 (それは……兄さまのこと?)



 そう目だけで問いかけると、まつは少しさびしく笑う。



 「……こうなると知っていたならば、おそばを離れるべきではなかったと、ゆうべ少しだけ後悔いたしました」

 「まつ……」



 兄さまを失ったことで、まつの封印していた想いが溢れてしまったのだろうか。

 複雑な表情の私を、重くした空気を払うように、まつは笑った。



 「けれどもそう思うことは、八十治さまにも弥平太にも申し訳ないことだと気づきました。

 私には愛すべき家族が無事でいる。住む家もある。それだけで十分幸せです。

 これ以上、何を望むことがありましょう?」