利勝さまとの思い出がつまった、夏の青空。

幸せだったころの空。



突き抜けるような青空の下を、ふたりで駆けてゆく。



利勝さまは私の手をしっかりと握りしめ、前だけを見て走ってゆく。



通り抜ける町屋は戦火に焼けておらず、以前のまま。



こんなふうに手をつないで男子と走るなんて、誰かに見られたらどんなお叱りを受けるか。



けれどもそんな懸念は全く無用だった。

だって私達以外、誰もいないんだもの。



城下町から抜け出ると、田や畑の鮮やかな緑の葉や野の花たちが、私達の進む道を彩ってくれる。

遠くには磐梯山と、群青色に染まる会津盆地を取り囲む山々。

それを上下に挟むようにして、天には青、地には緑が広がっている。

振り返れば白く輝く私達の誇りたる荘厳なお城。





私が愛した、そしてあなたが守ろうとしてくれた、美しい故郷の風景。





走ったためにふつふつと額に浮かぶ汗も、吹き抜けてゆく風が心地良く冷やしてくれる。





知らなかった。

思いきり走れるって、なんて開放感があるんだろう。



このままどこまでも行けるような気さえする。

つないだこの手が、私を導いてくれる。





「利勝さま!私、知りませんでした!
走れるって、こんなに心地良いものなんですね!」



気持ちよくて、うれしくて。

ついそう声をかけると、振り向いた利勝さまは目を細めて頷いてくれる。



大好きな背中とその先に広がる青空を見つめながら、

私は以前、思い描いていた夢が、叶った幸せを噛みしめていた。








白くまっすぐにのびる道の先で、誰かが待っている。


十人以上はいるその人達はみな若く、軍服を身に着けていた。

その中に見知ったお顔があることに気づく。



(兄さまがいる……。俊彦さまも、悌次郎さまも井深さまも)



皆……こちらを向いて、微笑んでいらっしゃる。



ああ あれはきっと、戦場や弁天山でお亡くなりになられた、士中二番隊の皆さまなのだわ。


利勝さまは皆さまの手前で歩を緩め、そして止まると私を振り返った。