この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜




 利勝さまの小刀を、そっと手に取る。

 利勝さまがいつも、お腰に差されておられたもの。


 見つめていると、吸い込まれてゆくような気がする。


 無意識に、カチリと鯉口を緩める。
 それをスラリと抜こうとした。



 「……ゆきさま!」



 私の動きは、まつの声と手に制される。

 愛しい人の刀で、のどを突くとでも思ったのだろうか。

 私の目は、それほど尋常ではなかったのか。


 まつが青ざめた顔で、私の手から強引に刀を奪い取った。



 「ゆきさまはまだお心が乱れておいでです!
 これは落ち着くまで、しばらくまつがお預かり致します!」



 危ぶむまつは利勝さまの小刀を戻すと、すばやく風呂敷で包み直す。

 まつが風呂敷を持ち上げ部屋を出ていくのを、名残惜しいとばかりに見つめ続けた。


 “お前にはこの刀を手にする資格はない”と、言われた気がした。


 先程の状態からいえば、当然のことかもしれない。
 それでもやっぱり、利勝さまのものに触れていたい……。



 「とにかく夜もだいぶ更けたことですし、今夜はもう休みましょう。皆 疲れているのですから」



 おさきさんが母さまと弥平太さんを促し、腰をあげさせる。

 そして私を見て、控えめに微笑んだ。



 「ゆきさまは今晩ここでゆっくりとお休みくださりませ。
 早まった真似は、皆にさらなる悲しみを与えるだけです。
 何が皆にとって一番よいのか……、それをゆっくり時間をかけて見つけていけばよろしいじゃないですか」



 おさきさんの言葉が、心に波紋を投げかける。

 それはいつか、私の心を救ってくれるだろうか。



 皆が部屋を去り、しんと静まり返る空間にひとり取り残された私は、ふと思い出して 懐を探った。



 (あった……!)



 取り出したのは、気を失う前に懐にしまっておいた手拭い。

 それはとてもくたびれて黒ずんで、最初に見た鮮やかな藍色は見る影もない。

 最期の時まで、利勝さまがおそばに置いていてくださった……。



 「……利勝さま……!」



 手拭いを胸にうずめるようにして、両手でぎゅっと握りしめる。


 もう会えないさびしさに、何かにすがりつかずにはいられなかった。