兄さまの小刀の鞘は、利勝さまのすぐそばに落ちていた。
小刀を鞘に納めて確信する。
兄さまは、きっと近くにおられる。
この小刀がそれを示している。
私は利勝さまのそばで横たわる遺体の中に、兄さまの姿を探す。
すぐ近くには大刀を脇腹に食い込ませて、仰向けに倒れているお方がいた。
凄まじい死に方をされたそのお方は、身体も大きく、お顔を見てももちろん兄さまじゃない。
(兄さま……どこにおられるのですか?)
利勝さまと違い、ほとんどの方がたと同様に黒い軍服を着用していた兄さまは、お顔が見えないと判別をつけがたい。
それでも利勝さまのおそばにいるはずと、心の中で兄さまを呼びながら、横たわる利勝さまの向こう側でこちらに背を向けうずくまる、小柄な体格に目をつけた。
注視する私のとなりまで来たまつも、同じように見つめる。
その背中の下、腰につけられている胴乱に見覚えがあった。
兄さまの身支度を手伝ったのは私だから、覚えてる。
あれは兄さまの胴乱だわ。
では、あれが………?
「……兄さま……?」
つぶやく私を、横にいたまつが青い顔で振り向く。
「そんな……まさか!」
「いいえ。あれは兄さまだわ」
言葉を失うまつの肩に手をのせると、立ち上がって近づいた。
やはり兄さまは、利勝さまのおそばにおられたんだ。
そして兄さまもまた、ご自害を………?
再び 涙が込み上げる。
私は……とても大切なおふたりを、一度に失ってしまったんだ。
言葉にならない悲しみが、胸の中で大きく膨らむ。
いつも 当たり前のように甘えていた背中。
その背中が、今はこんなにも小さく、頼りない。
それでも私は、思わずその背中に抱きついた。
「兄さまぁ……っ!!」
すがりつかれた身体は、はずみでぐらりと傾く。
力をまったく失ったそれは、抗うことなく地面に転がった。
目を、見開く。
「――――っ!!! いやっ…!いやあああっ!!!」
その姿を見て、のどが張り裂けそうなほどの悲鳴をあげていた。
だって。
だって、兄さまのお身体には。
首がついて なかったんだもの。
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