利勝さまはうつぶせに倒れていて、こちらに顔を向けていた。
………ああ。本当に利勝さまだ。
出陣をお見送りした時とは、まるで別人のよう。
顔色は青白く、生気がまったく無くて、まるで蝋で塗り固められた人形みたい。
でもここに、目の前におられるのは、間違いなく利勝さまなんだ。
そっと その背中に触れてみる。
そのまま背中に頬を寄せてみた。
―――濡れたように 冷たい。
以前にもこうして、この背中に頬を寄せた。
早春に抱きしめた冷たい背中は、芯に熱がこもっていて、握ってくれたその手が私の心を温めてくれた。
でも 今 触れている身体は、ただの抜け殻。
どんなに抱きしめても、もう熱は戻らない。
………いつから ここに、こうしておられたのだろう?
固く閉じられたまぶたは、ピクリとも動かない。
私がこんなに身を近づけても、少しも反応を示さない。
もし今 利勝さまが目を開けたら、この汚れた顔に粗末な着物姿の私を見て、
「なんだ その格好は!武士の娘が情けない!」
そう眉をひそめて、きっと叱り飛ばすでしょうに。
けれどもう、私を見て叱ってはくれないのですね……。
「……利勝さま。……望みは、利勝さまの望みは果たせましたか……?
気が済むまで存分に戦い、兄上さまの仇を討てましたか………?」
答えは 知る由もない。
その答えは、利勝さまがご一緒に連れて行ってしまわれたから。
頭を起こして、再度 利勝さまを見つめる。
右腕には藍色の手拭いが巻かれている。
その藍色も、黒ずんで変色していた。
腰のほうも、血で染められた白い帯が、赤黒く変わっている。
ここに来るまでのあいだに、傷を負われたのですね……?
だからここで 皆さまとともにお命を絶たれたのですか……?
「……利勝さま。ここまでよく頑張りましたね。
私はあなたを心から誇りに思います」
いつのまにか 口角があがる。
微笑むことができる。
「それから……ここまで戻ってきてくださり、ありがとうございます。おかげで私は、あなたに早く会えることができました」
それはきっと、あなたのそばにいるから。
だから涙が溢れても、私は笑っていられるの。
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