引き返したと思っていた村人が、心配してくれたのか興味本位なのか、弥平太さんの後ろから顔を覗かせてつぶやく。
「ほんに酷いことじゃ……。まだこんなにお若いのに、ご自分でお命を絶たれるなんてなあ……」
弥平太さんが頷いて言った。
「ええ……本当に。きっと敵兵に囲まれて退路を断たれ、お城へ戻ることが出来なかったのでしょう」
その言葉に、涙が一時的に止まる。
再度振り返り、近くで倒れている遺体をおそるおそる見つめてみる。
おびただしい血を流しただろう、隊士の亡骸。
血はすでに、すべて地面に吸いとられ、その場を黒く染めているのみだった。
そしてその隊士は、上衣を脱いで腹に刀をうずめ、前のめりに倒れている。
さっきは動揺していて気づかなかったけど、よくよく見てみれば確かに、皆それぞれが小刀を手にし、のどを突いていたり、腹を切って果てている。
『自害』………?
どうしてそんな。
ここまで来ていたのですよ?
お城はもうすぐだったのですよ?
利勝さま。私はすぐ近くにいたのに。
また涙が溢れてくる。
再びまつにしがみついて泣く私に、まつが気遣かって言ってくれた。
「……ゆきさま。永瀬さまのご遺品は、弥平太に取って来させましょうか?」
泣いてぐしゃぐしゃになった顔をあげ、まつを見つめる。
きっと私は、顔色を失っているのだろう。
一瞬、その言葉にすがりつきたくなった。
でもすぐに首を振る。
利勝さまとの約束だもの。
私がやらなきゃ。
「大丈夫よ、まつ。私 行くわ。利勝さまのおそばに」
「ですが……」
「いいの。ありがとう。私は大丈夫だから」
頑なまでに首を振ると、まつはため息をついてから、帯に挟めていた手拭いを取り出して、私の顔を拭いてくれた。
「……でしたら、お泣きになるのは、もう やめましょう。
そんなお顔は、永瀬さまに見せられませんよ」
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