不安な表情を浮かべて吾郎ちゃんを抱きかかえる母さまと、おさきさんに見送られながら、私達は弁天山へと向かった。
結構な傾斜の山道を、馴れた足取りで弥平太さんと村人は登ってゆく。
お荷物の私はまつに気遣われながら、彼らからはぐれまいと必死であとをついて行った。
山を登っているあいだにも、利勝さまや兄さまの傷つき斃た姿が何度も頭を過ぎる。
その光景を思い浮かべるたび、泣きたくなる気持ちを抑えて強くかぶりを振った。
『そんなことない。きっと大丈夫』
そう何度も何度も、自分に言い聞かせて。
山登りなどしたことのない私は、足元もおぼつかず、ふらふらと息切れしながらもなんとか山道を登り、
松林に囲まれた少し開けた場所で、やっと弥平太さんに追いついた。
弥平太さんはなぜかこちらに引き返してくるところで、せっかく登ってきた私達の前に立ちはだかる。
「や、弥平太さん……?」
見上げたその顔は青ざめていて、何かをこらえているようにも見えた。
「今、確認してきました。……あなたは見ないほうがいい」
見上げた目を見開く。
―――それがどういうことか、瞬時にわかった。
あの向こうにいるのは、やはり白虎隊の方がたなのだ。
そしてきっと、目もあてられないような惨状が広がっているのだろう。
それを想像して顔色を変えるも、弥平太さんを押し退けようとした。
けれど両肩を掴まれて、反対に強い力で押し戻されてしまう。
「あちらは酷い状態です!とても見れるものじゃない!
これは、あなたのために申しております!」
声高に言う弥平太さんに、私も負けじと声を張り上げた。
「それでも私は、見なければならないのです!
どうしても果たさねばならぬ約束のために………!!」
弥平太さんの制止も聞かず、肩を掴まれていたその手を振り切る。
山道からそれて斜面をまわり、私はその先を求めた。
「ゆきさま……!!」
後ろから呼び止める、まつの声にも足を止めない。
大丈夫。いるわけない。
ただそれを確認するだけ。
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