篠田どのは立ち上がると、皆に言う。
「さあ……みんな。城に向かって訣別の挨拶をしよう」
一同は頷くと、そろって居ずまいを正し、天守閣に向かって深々と頭を下げ最敬礼した。
皆の思いはそれぞれだろう。
俺も……心の中で、お役に立てなかったことを殿に深くお詫び申し上げ、父上と継母上に心の底から陳謝して、今まで育ててくれたお礼を述べた。
「父上……継母上。長らくお世話になりました。
家門の恥とならぬよう、八十治は会津武士として、立派に死んでみせます」
父上。
父上はきっと今も会津を守るため、越後で立派に戦っておられることでしょう。
父上の居られぬあいだに会津を守れなかったこと、誠に申し訳なく思っております。
このうえは 父上の子として、けして恥ずべき真似だけはいたしませんから、どうぞ お許し下さい。
それから 継母上。
自分は貴女をとても慕っておりました。
実の母に申し訳ないくらいに。
親孝行もできなかった自分を お許し下さい。
そして……母上。
出陣のとき、見送りに来てくれましたね。
情けない息子で申し訳ありませんでした。
せめて死に際だけは潔くするつもりです。
どうか 待っていて下さい。
今 そちらへ逝きますから。
「……徳川の世は終わった。この日本国は、新しい世に生まれ変わる。
そのために我が藩は……我が殿は、人柱となられたのだ。
我らもそれに殉じるのは、臣下の務めだ」
死に臨んで、乱れる心を抑えるためか。
西川どのが皆を慰めるようにつぶやく。
新しい世に、俺達のような愚直な会津武士は必要とされていないのだろうか。
新しい世が、薩長の手で作られることに憤りを感じるが、
これも時代の流れなのかもしれない。
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