うなだれて黙り込む雄治に、そっと近寄ってきたのは篠田どのだった。
篠田どのは俺達の前で片膝をつくと、俺に目配せして頷いてから、雄治を見つめた。
静かに雄治に語りかける。
「永瀬……。俺は隊長代理として言う。
お前や和助達を、ここに置き去りにすることはできない。
言っただろう?俺達は仲間だ。
戦うときも死ぬときも、皆 一緒にしようと。
俺は今こそが、皆で一緒に死ぬるときだと思う」
「……!! だが……!!」
雄治が歪んだ顔をあげ、瞳で訴える。
篠田どのはそれを穏やかな瞳で受けとめた。
「たとえまだお城は落ちていなくとも、もう勝敗は目に見えている。
それに俺達は疲れきっている。
弾薬も尽きたし、銃も洞門をくぐった時に水に浸かってしまい、もう役に立たない。
刀だけで敵に向かうのはあまりにも無謀だ。
それならばここで、皆一緒に逝こうじゃないか」
――――初めて体験した、本物の戦。
それは、俺達が想像してたものすべてを、はるかに凌駕するものだった。
冷え込む秋の夜のなか、風雨にさらされ 寒さに凍え、夜が明けるまでまんじりともせず、そして食事もとらずに戦闘に入った。
おびただしい血と、目をそらしたくなるほどの転がる骸も見た。
そして西軍との圧倒的な火器の差を目の当たりにした。
近代兵器を前に、我が軍は赤子も同然だった。
会津魂という気概だけでは勝てないのだということを、誰もが悟った。
俺達は 無力だった。
このうえ燃えさかる城下を望んで、俺達に何が出来ようというのか。
それは 主君に忠義を示すため、会津武士として立派に屠腹し、家門の名を汚さないこと。
「俺達が今 為すべきことは、城の存否を確かめることじゃない。
会津武士としての本分を全うすることだ。
それが俺達の、最後に果たす使命だ。……違うか?」
篠田どのは皆を見渡して、穏やかな声で問う。
「……違わない。儀三郎」
「そうだ。そうしよう」
皆が頷くなか、また一筋の涙を流して雄治も静かに頷いた。
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