遠く彼方に見える黒煙を見つめながら、篠田どのがつぶやく。
「……会津が負けた。俺達の役目は終わった……」
くやしさを押し殺した、弱々しい声だった。
「俺達は帰る場所を失った。このままぐずぐずしていたら敵に捕えられてしまう。
そうならないうちに、ここで腹を切ろう。
最後まで会津武士としての誇りを持って、潔く果てよう……!」
西川どのの言葉に、ほとんどの隊士が頷く。
――――ここで自害する。
そう判断することは、厳しい掟やしつけの中で育ってきた俺達にとって、至極 当たり前のことだった。
誰もがその覚悟を固めようとしていたとき、井深が言った。
「……本当にお城は、陥ってしまったのだろうか……」
皆が井深を振り向くと、奴は真剣な表情で炎の中の天守閣を見据えている。
「俺は母上から、我らのお城は天下の名城だから、たとえ敵に囲まれたとしても、そう易々と落ちるはずはないと聞いていた。
いま一度、よく確認したほうがよくないか」
「井深!この期に及んで何を言う!? そんなに言うのなら、貴様が行って確かめてくればよかろう!?」
簗瀬どのが井深の発言を叱りとばす。
ここから城の存否を見極めるのは難しい。
しかし敵がはびこるなか城の存否を確認に行くなら、この格好でうろついては敵にすぐそれと気づかれてしまう。
斥候に赴くなら、農民の格好をしなければ思うように動けまい。
だがそれは、俺達の心の中にある侍の矜持が許さない。
誰もが野良着を着てコソコソと偵察に行くことを、恥と感じていた。
そんなことをするくらいなら、今ここで腹を切ったほうがはるかにマシだと。
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