雄治を抱えながら、さざえ堂の脇を通りすぎる。
重い足を引きずりながら、俺は奴に何度も声をかけた。
「雄治。ほら、もうすぐ城下が見下ろせる。もうすぐだ。もうすぐ」
なぜだろう。
雄治を励ますのではなく、自分の気力を奮い起こすためなのか。
口から無駄に言葉を繰り返す。
もうすぐ。もうすぐと。
その先に救いを求めるかのように。
いったい何がもうすぐだというのか。
この上り坂の向こうに観音さまでもいて、雄治や仲間の傷をすべて癒してくれるとでもいうのか。
もしそれが叶うなら、俺の命を渡したっていい。
そんな非現実な考えに至って、ふと我に返る。
(俺は この期に及んで何を考えているんだろう)
さっきから忘れていた、左肩の傷がじくじくと痛むせいか。
もしかして 「もうすぐ」 とは、俺が雄治を抱えて歩くことの限界を意味しているのかもしれん。
俺がその言葉を口にするたび、微かに口角を上げていた、雄治の紫色に染まった唇が開く。
「……なあ。……あいつは……、あいつは 大丈夫だろうか……?」
その目は、右腕に巻かれてある手拭いを見つめていた。
俺は強く頷く。
「ゆきならきっと大丈夫だ。ゆきにはまつがついてる。あれは できた女だ。
まつなら、きっとゆきを死なせるようなことはさせない。だから安心しろ」
きっぱりと言いきった。
「まつ……?ああ……お前んとこで働いてた下女か……。
そっか……無事なんだな。よかった………」
根拠も何もないのに断言した俺を、雄治は素直に信じて安心したように笑う。
雄治の命のともしびが消えかけている。
このとき そう感じた。
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