白兵戦では味方の軍が押し気味に見えたが、敵軍の数は十六橋を渡りどんどん増えていた。

気がつけば刀を持つ敵兵は引いてゆき、朝もやの向こうには敵の大軍が散開して押し寄せてくるのが見える。

しかも俺達はいつのまにか敵軍に囲まれつつあった。


退路を塞がれてはまずい。


隊長の指示を、と 首をめぐらせたとき、また何発もの銃声が聞こえた。

とっさに皆 身を伏せる。


銃撃戦が開始されると、俺達はなすすべがない。

「ぐっ!」「ぎゃっ!」と、反応に遅れた味方の兵の何人かが銃弾に倒れた。



「……退却っ!! 味方の陣地まで退却せよ!!」



遠く聞こえる山内小隊頭の退却命令に、口惜しいながらも手が出せず唇を噛みしめる。

銃弾が頭上を飛び交う中を、這うように草むらに身を伏せながら後退した。



俺の前には、無事な姿の草色がある。
それを見ただけで安堵に口元が緩む。



(よかった。雄治にケガはないようだ)



後退する途中で、退却できずうずくまっている隊士を見かけた。



「……和助!!」



俺が声をかけると、和助は頭をもたげる。
先程の不敵な笑みが苦痛に歪んでいた。



「八十治か……」



和助はたいしたことはないと笑みを浮かべようとするが、それさえつらそうだ。



見ると肩や太腿など、所どころ斬られて傷ついている。

出血もひどい……!



「早く行け……。敵が来るぞ」


「馬鹿っ!! 置いてけるはずないだろ!? 引きずってでも連れていくぞ!!」



怒鳴りながら懐の手拭いを素早く取り出すと、一番傷の深そうな太腿にきつく巻きつけた。



「だいぶ大暴れしたようだな。おかげで俺は救われた」



俺がそう言うと、和助はふっと笑う。

雄治とそばにいた俊彦が引き返して手を貸してくれた。



「行こう。退却だ」



俺達は仲間の背を追いかけるようにして、山の奥へと退却していった。