長い夜が明ける。



東の空が白みはじめ、やっと明るくなってきた。



日向隊長はとうとう戻って来なかった。



ここ 大野ケ原は、丘陵と湿原の交錯する大原野だった。



地形が複雑な上に、ゆうべの雨降る闇夜の中だ。



隊長はあのまま、道に迷って戻れなくなってしまわれたのだと誰もが思った。



一晩中降り続いた雨は小雨に変わり、じき止みそうな気配を見せていた。


しかし高地の朝は、冷たい空気に包まれる。


身体が濡れて冷えきっているうえに、ほとんど眠れない夜をやり過ごし、朝になっても食べる食糧もない俺達は、徐々に熱を奪われ体力を失い始めていた。



もう誰も冗談を口にする者はいない。



雨が降ったせいか、辺りは濃霧に満ちていてひどく視界が悪い。



半隊頭の一人、原田 克吉さまは戦況を知るため、城取(しろとり) 豊太郎(とよたろう)有賀(ありが) 織之助(おりのすけ)鈴木(すずき) 源吉(げんきち)ら七名の隊士達を連れて、大野ケ原を東へ進んだ戸ノ口村方向へ斥候に出てゆかれた。