目を閉じて、一度だけ大きく息を吐く。

そのあいだにできるだけ心を落ち着かせてから、雄治をまっすぐに見つめた。

そして奴の心をなだめるように、つとめて穏やかな口調で言う。



「言ったところで、何が変わったと言うんだ?
ゆきが好きなのはお前だ。それは俺がいようがいまいが関係ない。

それにゆきが兄として信頼してくれるなら、俺はその思いを裏切りたくない。
ゆきの中ではとうに、俺の位置は『兄』と決まっているんだ」





――――そうだ。俺は。

ずっとそう自分に言い聞かせて、己の想いに蓋をしてきた。

どうせこの気持ちは、報われないものだからと。



雄治が目を伏せてつらそうに顔を歪める。
たびたび光る雷光が、それを映し出す。



「……変わってたかもしれないだろ!?

少なくともそれを知ってたら、もっと早くお前の気持ちに気づいていたなら、

俺はあいつを受け入れたりしなかった!」





(―――――!! )





頭にカッと血がのぼり、腹の立つ勢いで雄治の胸ぐらを掴んで引き寄せる。

雨で冷えたはずの身体に、瞬時に熱が広がる。



「―――ふざけるな!!! 同情してるつもりか!?

そんなことされても、ゆきの気持ちは俺には向かん!ゆきを悲しませるだけだ!」



滅多にない俺の態度に驚いたのか、ゆきが悲しむと言われてうろたえたのか、雄治は目を大きく瞠る。



「お前の気持ちに、俺が気づいてないとでも思っていたのか!? 馬鹿にするなっ!!」