……懐かしい思い出に、つい笑いが漏れる。
「……なんだよ、八十?」
となりにいた雄治が訝しそうにこちらを見つめた。
俺は笑みを隠すことなく言う。
「すまん。つい昔を思い出していた」
「へえ、どんな?」
「お前と出会った時のこと」
「ああ、あれか」
雄治の口元にも笑みが浮かんだ。
「お前はチビと言われるたび、腹を立てていたなあ。まあ、だいたい言うのは野村どのだったが。
そのくせ、ゆきには何度もチビチビ言ってたな」
俺がそう言うと、雄治はきまり悪そうな顔をする。
「女はチビのほうが可愛い気があるんだよ!姉上みたいに背も態度もでかい女はごめんだ」
「なんだ。やっぱりお前、ゆきを可愛いと思ってたんじゃないか」
「ばっ……!八十!!」
雄治はあわてて立ち上がり、皆の注目を集めた。
「〜〜っ!」
雄治は無言でまたその場にストンと座る。
暗がりでも雄治が頬を膨らませているのがわかって、口からクックッと笑いが漏れた。
ゆきの名を口にしたせいか、俺の脳裏に雄治とゆきの別れ際のやりとりが思い起こされる。
「……しかし、あの約束はいささかキツ過ぎたんじゃないのか?」
『死体となった自分達を探してくれ』などと。
俺なら きっと言えない。
どんなに称賛されるような戦いを見せたとしても、死ねばただの骸でしかない。
血にまみれたそれは、いずれ腐り腐臭を放つだろう。
野犬や狐狸に喰い荒らされるかもしれない。
そんな凄惨窮まりないものを、あの泣き虫のゆきに探させるのは忍びがたいものがあった。
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