冷めた目でその視線を受け止めながら、こう思ったものだ。
『貴様はそれを気にしているから腹が立つのだろう』と。
だから雑巾の手も止めぬまま、淡々とした口調で返した。
「俺は両親からもらったこの身体に、不満など何ひとつない」
継母上はおっしゃった。
自分は母上が遺してくれた、大切な忘れ形見なのだと。
この身体は、母上が生きた証。
なんの不満があろうか。
「それに他者より劣っているところは別の面で補えばいい。
己の外見を指摘されて腹を立てるヒマがあったら、内面をもっと磨けばいいだけの話だ」
これは、ゆきを見ていて感じたこと。
たとえ 足が悪かろうと、背が低かろうと、それを理由に卑屈になることなんて全くないんだ。
「………ふうん」
多少厭味も含めて言ったつもりだったが、それに気づかなかったのか、はたまたその部分のみ黙殺したか。
雄治は満足そうにニッと笑んだ。
「お前、なかなか言うな」
―――そのことがあってから、俺はやたら雄治に構われるようになった。
同じような体格に、変な仲間意識を持たれたのかもしれない。
………合縁奇縁とでも言うのだろうか。
在籍する塾も、住む場所も異なる俺と雄治は、本来なら親しくなるはずのない間柄だった。
日新館では居住地域別に四つの塾に分かれており、入学するとそのいずれかの塾生となる。
各塾は一番・二番組に分かれ、さらに人数が多いと甲乙で組分けし、十の組に分けられたそれは、そのひとつひとつを《辺》と呼んだ。
《辺》はお互いを高めるために敵視し、競争し合い、たびたび喧嘩などを起こす。
城から西側に住む俺と、南側に住む雄治とでは場所が離れていたため、違う《辺》にいた。
そんな異なる《辺》であるならば、親戚でもない限り、親しくなる機会はほとんどない。
この日本が諸外国の脅威にさらされ、小競り合いなどしてる場合ではないと、それはだいぶ緩やかになったようではあるが、
そんな中で雄治と親しくなったのは、やはり気の合う何かがあったのだろう。
………雄治の、事あるごとに率直な感情をあらわにする性格が、己の感情を滅多に表に出さない俺には、心地いいものだったのかも知れない。
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