となりにある雄治の濡れた肩が小突いてくる。
「くそ……冷えるな」
「なんだ雄治。もう音をあげたのか?」
「……別にっ!これぐらい何ともねえ!」
暗闇に目が慣れてきたのか、口を尖らす雄治の顔が見えて、思わず口からふっと笑いが漏れる。
雄治は最初から、負けん気が強かった。
俺と雄治が出会ったのは、日新館に入学して、しばらく経ってからだったか。
もっとも 異なる塾に在籍していたから、掃除の時に顔を合わせるくらいのものでしかなかったが。
初めて口を聞いたのは、そんな掃除をしてるとき。
孔子をお祀りしている大成殿の大柱を、雑巾で拭いていた俺の背中に、ぶつかってきた奴がいた。
振り向くと、身体がことのほか大きなそいつは、謝りもせずに俺を見て笑った。
「なんだ、えらくチビな奴がいたな!そんなチビのくせにお前、柱なんか拭けるのかあ?」
「………」
自分はその言葉を黙殺した。柱に向き直り、雑巾を持つ手を動かす。
「どうせ届きっこないだろ!貸せよ!俺が拭いてやるからさ!」
そいつは俺から雑巾を取り上げようとする。
だがその後ろから、大声で駆け寄ってくる奴がいた。
「誰だあ!? 今 チビって言った奴は!! 」
それが 雄治だ。
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