敵はすでに、十六橋にまで攻めてきている。


なんとしても阻止せねば。
でなければ、敵が城下に攻め入ってしまう。


城を、城下の民を守らなければ。
そしてゆきを。大切な家族を守らなければ。


そのためなら、俺は命を賭して戦う。




改めて決意を固め、俯きがちだった顔を前へ向けた。

何気なく視界に入った群衆の中に、ふと懐かしい面影を見つけて、しびれるような感覚が全身を突き抜ける。



(――――!! )



一瞬 驚きで、息が止まりそうになった。

全身に鳥肌が立つ。



顔を向けてよく目を凝らすと、その姿は とうに消えていた。



(馬鹿な……!そんなこと、あるはずがない!)



驚く心を落ち着かせ、頭に浮かんだその人の名を打ち消す。



だが俺は、確かに見た。

その人は、自分の記憶と少しも変わらぬ姿で微笑んでいた。





「……母上……」





その微笑みに、とうに忘れていたはずの母の温もりが、胸の中によみがえる。



母上。

母上も見送りに来て下さったのですか?



「……おい、どうした?」



となりをゆく俊彦が、俺の様子に気づいて小さく声をかけてくる。

軽く首を振り、微笑してみせた。



「いや、すまん。大丈夫だ」





―――きっと母上は、俺を見守っていて下さる。





そう思ったら、これから迎えるだろう死も 少しも怖くなくなった。



母上のそばにいけるなら。
それも幸せなことかも知れない。