母さまが懐剣を持つ手を伸ばせば、刃が届きそうなところまで、まつは近づき対峙する。

 うろたえる母さまとは違い、まつはあくまでも毅然としていた。



 「奥方さま、気をしっかりお持ちくださいませ。
 焦りに駆られて、無駄にお命をお捨てになってはなりません」

 「む……無駄!? この国難に殉ずることを、無駄じゃと申すのか!?」



 母さまの瞳に悲憤の色が宿るけれど、まつも負けてはいない。



 「ご無礼を承知で申し上げております。
 奥方さま、人にはそれぞれ、命の使い方というのがございます。
 ゆきさまは そのお命を、お慕いしている永瀬さまのために使いたいと申しているのです。
 母親なら……女子なら。どうかそのお気持ちを汲んであげてくださいませ」

 (―――まつ……!)



 まつの言葉に、また泣きそうになる。
 母さまは完全に動揺していた。その瞳が絶えず泳ぐ。



 「まつ……!お前にはわからぬのです!武家の命はたとえ赤子であろうとも、あくまでお殿さまのため!
 それを己のために使おうなどと、許されるものではありませぬ!」



 うろたえつつも、武家の教えを貫こうとする母さま。
 まつはその母さまの懐剣を握る手を掴んだ。



 「……!!」