「ゆきさまのおっしゃる通りです。奥方さま、どうか刀をお納めください」



 部屋の外から響く凜とした声に遮られ、私も、すでに顔色を失った母さまも、ゆっくりとその声の主を振り返る。

 開け放たれた障子の向こうで庭先に立つその人は、目を細めて懐かしそうに微笑んだ。



 「お久しゅうございます。奥方さま。ゆきさま」

 「まつ……!!」



 まつは 別れた時より幾分大人びた、その懐かしい顔をほころばせて立っていた。

 けれど再会を喜ぶ笑顔もつかの間、まつはすぐ表情を引き締める。



 「八十治さまが危惧(きぐ)されていた通りでございましたね。間に合ってよろしゅうございました」

 「兄さまが……!?」



 私と母さまは固まったまま驚愕した。
 まつは大きく頷く。



 「ええ。奥方さまはきっと、御足が不自由なゆきさまを懸念して思い詰めるあまり、ゆきさまと共にご自害を図るだろうと、八十治さまからお文をいただいておりましたので」



 私は驚いた。



 (兄さま……そこまで母さまと私の心配を?)



 まつは承諾も得ずに庭先から部屋へ上がると、まっすぐ母さまに歩み寄る。