「ひと足お先に逝って、お父上と八十治さんを待ちましょう」



 そうおっしゃって、懐剣を振りかざしたまま じりじりと詰め寄る母さまは、まるでからくり人形のよう。
 武家の掟を成し遂げるための人形。

 思わず声を張りあげた。



 「母さま、お待ちください!! 私……!私はまだ、死ねません!!」



 ピクリと、人形の動きが止まる。
 その目が厳しく蔑むかのごとく私を射る。



 「……お前は!なんという見下げ果てたことを申すのです!!
 命を惜しむとは、なんと情けない……!! それでも武家の娘ですか!?」



 懐剣を持つ手が、怒りに震える。
 それでも私はなおも必死で訴えた。



 「そうではございません!私も母さまと同じく、自害する覚悟でおりました!

 けれども私は、利勝さまとお約束したのです!
 戦が終わったら、きっと利勝さまを探しに参りますと!
 たとえ (むくろ)と成り果てていても、そのお身体から形見を受け取り、くら子さまに必ずやお渡しいたしますと!

 ……お願いです!母さま!!

 利勝さまは、となりには必ず兄さまもおられるとおっしゃられました!私はおふたりを、どうしても探しに参りたいのです!!」