「それじゃあ、行ってくる」



そうおっしゃって歩きだすおふたりを、門の外まで見送り、深々と頭を下げる。



「いってらっしゃいませ!ご武運を!」



避難する町人達が荷物を抱えて急ぎ行き交うなか、おふたりのよく似た背中が見えなくなるまで、私は見つめ続けた。





――――とうとう 言えなかった、言葉。





『どうか 無事に帰ってきて。また笑顔を見せてください』。



それは望んではいけないことだから。

言えばきっと、困らせるだけだから。

私の気持ちを、押しつけてはいけないから。






――――私も。


自分にできることを、精一杯 がんばろう。


こんな足でも『お前なら 大丈夫』そうおっしゃってくれたおふたりのために。



私も 何かのお役に立ちたい。





涙をこらえるように天を仰ぐ。



分厚い雲に覆われて、空は低く垂れ込めていた。



その暗澹(あんたん)たる雲行きが、これからの会津の行く末を暗示しているかに見えた。