兄さまは私の肩に手を置いたまま、静かにおっしゃった。
「俺達はいつ出陣命令が出るかわからない。
父上のように慌しく出て行くことになるかもしれない。
そうなれば、ゆっくり挨拶などしてられないと思うから、今のうちに挨拶だけは済ませておくといい」
「えっ……」
思わぬ言葉に見上げると、兄さまはすべて承知しているというように強く頷いた。
――――ドキン!と 胸が鳴る。
目を、瞠る。
(兄さまは、とうにご存知だったのですか?)
私が 利勝さまに 恋していることを。
「あ……兄さま。私、用事を思い出しましたので、少し出かけてきてもよろしいですか……?」
動揺は何とか隠せても、潤んでしまう目元は隠しようがない。
小さな声でうかがうと、兄さまは優しい眼差しで頷いてくれた。
「行ってこい。継母上には、俺から伝えておくから」
その言葉にお辞儀で返すと、すぐに背を向ける。
この気持ちを知られていた恥ずかしさで、兄さまのそばから逃げ出したかったのかもしれない。
それでも そのまま、足は利勝さまの元へと向かった。
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