この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜




 とうとう 初陣の日。

 兄さまは支度を済ませ玄関で草鞋を履くと、見送りに出た母さまに深々とお辞儀する。



 「継母上。いろいろとご用意していただき、ありがとうございました」



 顔をあげた兄さまは、その瞳を輝かせ、晴れやかなお顔で笑われた。


 母さまが縫いあげた黒い詰め襟・筒袖の上衣に黒のダンぶくろ(ズボン)。
 そして額の白い鉢巻きと、刀を差すために巻いた腰の白い帯が鮮やかな、兄さまの凛々しいお姿。


 そのご立派な姿を誇らしげに見つめながら、母さまはおっしゃった。



 「くれぐれも無茶だけはなさりませんように。
 若殿さまに危険が迫ったその時は、しっかりとお守りし、使命を果たすよう心掛けなさい」

 「はい!それでは行って参ります!」



 元気な声で答えると、兄さまは私を振り向いた。



 「じゃあな、ゆき。行ってくる」



 力強いその声に、私も笑顔を見せる。



 「はい!お気をつけていってらっしゃいませ!ご出陣の際は、お見送りに参りますね!」



 目を細めて頷くと、兄さまは私の手から握り飯のお弁当と水筒を受け取った。


 そして再度、母さまにお辞儀すると、背を向けて歩き出す。


 その後ろ姿が門を出て見えなくなると、私は後を追って門を出た。


 お城へと向かう兄さまの背中を見つめて、心の中で祈る。

 どうか どうか、ご無事に帰ってきて と。