永瀬邸に着くと、私はいつものように裏口へまわり、声をかける。
 するとくら子さまが、すぐに出てきてくださった。

 いつものように、母さまから預かったお野菜をお渡しすると、



 「いつもありがとう。とき子さまにも、お心遣い感謝いたしますとよろしく伝えてくださいね」



 そう優しく微笑みかけてくださる。


 ………くら子さまは気丈なお方ですから、当たり前でしょうが、私みたいな子供に対して、けして弱音を吐いたりいたしません。

 いつもお屋敷へ伺うと、変わらぬ態度で接してくれます。

 そんなお母上さまを見ているからでしょうか、さき子さまも不安な表情を一切見せず、私に笑いかけてくださいます。



 けれどそんなおふたりの心中を察すると、せつなさで胸が張り裂けそうになるのです。


 本当は私が、明るく笑って励まさなければならないのに。


 母さまに叱られても、やはり私は、笑えないままでした。