家に戻られた兄さまは、今までにないくらいの喜びを見せておられました。



 「ただいま戻りました!! 継母上!継母上はおられますか!?」



 玄関から大声を張りあげて、足音もまるで利勝さまのよう。



 台所で夕飯の支度に取りかかっていた母さまと私は、駆け込んでくるその姿に何事かと顔を見合わせた。



 「継母上 聞いて下さい!ついに出動命令が出ました!!」



 その言葉に、土間で大根の葉を刻もうとしていた 包丁を持つ私の手が止まる。

 身体が硬直して、息が詰まった。



 「まあ……まことですか!それは喜ばしいことですね!
 それで出陣はいつ頃に?どちらへ参られますの?」



 母さまはおおげさ過ぎるほどの喜びを見せて兄さまに訊ねる。



 「はい!藩兵の激励に向かう若殿の護衛として、福良まで向かうことになりました!! 出立は七月十日です!」


 「そう……!それではもう何日もないわね!出陣する日までに新しい着物と足袋と。ああそれと、新しい草鞋(わらじ)も用意しなくてはね!」



 母さまも、兄さまの興奮したご様子に触発されたように、あわてて腰を浮かせた。