その厳しいお顔に、私はたちまち不安になる。
 すると、母さまはおっしゃった。



 「ほら、その顔。お前はそうやって、すぐ感情を表に出してしまう。
 お前は お父上や八十治さんがいざ出陣するという際にも、そんな顔で送り出すつもりなの?」



 厳しく睨まれて、私は思わず俯いてしまう。



 「も、申し訳ありません……」

 「武士にとって、主君のため 国難のために命を捧げることは、とても名誉なこと。
 それを悲しむとあっては、八十治さんの心もくじけてしまうでしょう。
 お前も武士の娘なのだから、気を強く持ちなさい。
 その時が来たら、けして涙を見せず、喜んで送り出すのです。いいですね」

 「はっ、はい!申し訳ございませんでした!! 以後気をつけます!!」



 畏縮して畳に手をつき、頭を深く下げて謝ると、母さまは近寄ってきて私の手を取った。



 見上げるそのお顔は、いつものやさしい母さまに戻っていて。
 口調も穏やかに、私に話して聞かせる。



 「お前も見たでしょう。八十治さんのあの喜び勇んだ顔を。
 必ずお殿さまのお役に立つぞと、意気揚々とした表情を。
 その気持ちを、大事にしてあげなければ。
 お前がそんな顔をしていたら、きっと八十治さんはいい働きができないわ?」