話は少しさかのぼって、慶応三年(1867年)春。


この年兄さまは、日新館の素読所(そどくしょ)(小学校)四等級をすべて修了し、講釈所(こうしゃくじょ)(大学)である止善堂へと進むことができました。



「兄さま!おめでとうございます!」



親戚を呼んで、屋敷で祝宴を開いたおり。

祝いの席で気分が高まり、私は興奮して頬を紅潮させながら、あらためて兄さまにお祝いのお言葉を述べた。



本来なら十七・十八歳で修了するところを、「飛び級」という、試験に合格すればどんどん進級できる制度があるため、兄さまは十五歳で講釈所へ入ることを許されたのだ。



「俺などまだまだだよ。井深は十三歳で止善堂に進んだんだぞ」



兄さまは苦笑しておっしゃる。


けれどお父上さまにも、親戚の皆さまにもお褒めのお言葉をいただいたらしく、兄さまも喜びを隠せないようだった。



「はあ……井深さまは、すごいお方なんですねぇ」



私は去年お会いした、井深さまのお姿を思い出す。

一歩引いたところにいて、常に周りを気にかけているような、穏やかさと優しさを持ったお方だと思ったっけ。

そんなにすごいお方だったなんて、知りもしなかった。