「わあ……すごい!! 」
思わず私は、感嘆の声を漏らした。
そこは辺り一面、瞬く光りに包まれていた。
「やっぱりな。昼間、雨が降ったから」
利勝さまが得意そうにつぶやく。
まるで天から星が落ちてきたような、たくさんの蛍の光り。
それは一点に留まるものもあれば、飛び交うものもあって。
その小さなからだで、「私はここだ」と 精一杯光り輝いている。
「蛍の命は短い」
たくさんの瞬きの中で、兄さまがぽつりとおっしゃった。
「だからその命が燃え尽きるまで、自身の光りをのちの世へ繋ごうと、懸命に伝えようとしているんだ」
兄さまの言葉は、不思議な響きを放っていた。
まるで儚い夢のよう。
利勝さまもこの景色に魅入っているのか、微動だにしない。
淡く光る瞬きの中で佇む、利勝さまのお姿。
今……私は。
利勝さまと兄さまと、同じ場所で 同じ光りを見て。
きっと 同じ思いを共有してる。
いつもは遠い利勝さまが、なんだかとても近くに感じられた。
また、宝物が増えた。
利勝さまはその場をあとにしても、結局 私達の屋敷までついてきて下さった。
門先まで見送りながら、送って下さったお礼を述べる私に、利勝さまはいつものように素っ気なくおっしゃった。
「……手拭いの礼だ」
ぼそりと返す口調は、照れを隠しているみたい。
藍色の中へと消えてゆく、月明かりに照らされた後ろ姿を見つめながら、
私は心に新たに灯った温かさを 両手でぎゅっと抱きしめた。
………利勝さまの懐の中にある、藍色に染まった手拭い。
私の心も染まってく。利勝さまの色に 染まってく。
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