翌日。

利勝さまがご自宅に戻られた頃を見計らい、私はさっそく利勝さまのお宅へ向かった。



出かけるのはもう暮六ツ(日没)になりそうな時刻だったので、母さまは少し心配そうなお顔をされておられたけれど、

行き先が利勝さまのお宅だったので、なんとか許してもらえた。



兄さまも まだお戻りにならない。



きっとまだ陽が落ちていないから、ゆっくりしておられるのだわ。


兄さまには、井深さまに手拭いをお渡ししていただくようお願いした。



でも利勝さまには、どうしても自分の手でお渡ししたくて。



どう渡そうか考えながら、馴れた道を歩いてゆく。





いつものとおり 新町通りを過ぎ、蓮台寺の脇を通り抜け、湯川に架かる細い橋を渡ると、厩町から花畑大通りに出る。

そうして 手前右側の角の家が、利勝さまのお屋敷だ。



あれこれ悩んでたら、あっという間に着いてしまった。



いつも来ているのに、今日は緊張してしまう。



直接 利勝さまにご用があって、お伺いするのは初めてだから。



「ごめんください」



玄関からおとないを入れると、さき子さまが姿を現した。



「あら、おゆきちゃん!もうすぐ陽が落ちるのに、どうしたの?」


「あ…あの、今日は利勝さまにご用がありまして……。あの…おられますでしょうか?」



ドキドキしながらお尋ねすると、さき子さまは快く頷いてくれる。



「雄治?あの子なら帰ってきてるわよ。ちょっと待っててね?」



そうおっしゃって、一度奥へと姿を消すと、利勝さまを連れてきて下さった。