兄さまの表情は、どこか哀しそうで、それでいてどこか怒っているようでもあって。

 何とも形容しがたい複雑な表情に、私は戸惑ってしまう。



 「あ……兄さまひどいです!ここは嘘でも“大丈夫、お前ならやれるよ”と励ますところですよ!」



 動揺して、視線を絶えず動かしながら言うと、



 「……そうだな。悪かったよ」



 兄さまは軽い笑いを漏らして、また書物に視線を落とした。


 視線をそらされて、なぜか私はホッとする。



 「……だが、足を気にして嫁にいきたくないと申すなら、気兼ねなくここにいればいい。
 家を継いだあとも、お前ひとり多いくらい、俺が食わせてってやるよ」



 書物に目を落としたまま、兄さまは続ける。



 「や……やだなあ。私、小姑ですか?それじゃあ、お義姉さまに嫌がられそう……」



 私が言うと、



 「嫁にくるのは、まつのような女がいいな」



 そうつぶやいて、兄さまはふっと笑った。