その後まつは、三日間ほど実家で久しぶりに家族との時間を過ごしてから、婚礼の日を迎えました。
その日はことのほか暑く、天もまつを祝福するようなすがすがしい青空でした。
お父上さまと母さまは、まつの婚儀に出席するため、昼間から早々と出かけられました。
私達はお留守番。
静かな家の中が余計に淋しく思えて、ひとりでいるのが嫌で、私はまた兄さまのお部屋に転がり込むことにした。
きっと兄さまだって、お淋しいはずだもの。
まつも「兄さまは淋しがりや」だと言ってたし。
何をする訳でもなく、すべての戸を取り外して見通しの良くなったお部屋から庭を眺める。
兄さまは読書中。
日新館はお休みの日で、とてもいい天気なのに、大好きな釣りに行くこともせず、どこにも出かける様子はない。
そうして背筋を伸ばした姿勢で書見台に向かい、黙々と難しい書物を読み耽っている。
「……今頃は、婚礼の準備を慌ただしくされているのでしょうか」
読書の邪魔をするつもりはないのだけれど、手持ち無沙汰でつい独り言のようにつぶやいてしまう。
兄さまからの反応はない。
「まつの花嫁姿。きれいだろうなあ……」
「お前もそのうちそうなるさ」
羨ましいと取られたのか、兄さまはそんな返事をよこす。
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