「ゆきさま……」



 まつは涙ぐむ私を見て困ったように笑いながら、そっと手をとってくれた。



 「泣かないでくださいな。もう二度と会えない訳ではないのですから。会おうと思えばいつでも会えます」



 いつまでもダメな私を、やさしく励ましてくれる。



 「ゆきさま。……この前は、ひどいことを申しましてすみませんでした。どうかお許しください」



 その瞳を少し曇らせて、まつは詫びた。



 (まつ……謝らないって、言っていたのに)



 不思議そうに見つめる私に、まつは笑顔で返してくれる。



 「ですが私は、ゆきさまが大好きですよ。無邪気で、素直で。優しい貴女さまが。
 どうかいつまでも、そのお心を大切になさってください」

 「まつ……!」



 たまらず、まつに抱きついた。
 情けないことに、わあわあ泣いてしまった。



 (私も。私もまつが 大好きよ)



 あらあらと、母さまがまつから、泣きじゃくる私を受け取る。
 まつは温かな眼差しでそれを見つめ、そして耳元で囁いた。



 「……八十治さまをよろしくお願いしますね。
 あの方はああ見えて、存外淋しがりやなんです」



 ぱちくりして涙を払う私に、まつは終始微笑んだまま、迎えに来たまつの父上と一緒に林の家をあとにした。



 まつは最後まで、涙を見せませんでした。


 まつは強い女性でした。