とうとう、まつが家を出る日。
身の回りの物を詰めた小さな風呂敷包みと、母さまがはりきって縫い上げた花嫁衣裳を携えて。
まつは門の前に立つと、見送りに出た家族に深々と頭を下げた。
「本当に長い間、お世話になりました……」
まつは、お父上さまと母さまに顔を向けてお世話になったお礼とお暇乞いを述べたあと、
温かな言葉をかけられて目を潤ませながら、兄さまと杖に寄り掛かって立つ私の前に近づいた。
そして私達の顔を交互に見つめたあと、再度深々と頭を下げる。
再び顔を上げたまつは、にっこりと笑った。
兄さまが口を開く。
「まつ……約束忘れるなよ。ちゃんと幸せになってくれよ」
「わかっております。必ず、幸せになります」
強く答えるまつに、兄さまは目を細めて安心したように笑った。
一片の曇りもないその笑顔を、愛おしく見つめるまつの眼差しが、私にはとてもせつなかった。
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