睨まれても何ともない顔でまつは淡々と言った。
「ゆきさま。ゆきさまは八十治さまに、私の婚儀を取りやめにしてほしいとお願いしたそうですね。
あれほど私がやめてくださいと申しましたのに」
「……!! それは兄さまがおっしゃったの!?」
「ええ、そうです」
(うそ!兄さまどうして……!?)
動揺を隠せない。
そんな私を軽く睨んで、まつはため息をつくと、悲しく目線を畳に落とした。
「八十治さまは、私にこうおっしゃいました。
『まつ、約束してくれ。嫁ぎ先で必ず幸せになると。そう俺に誓ってくれ』って。
……ひどいお話でしょう?
私の幸せは、あの方のおそばにしか有り得ないのに。
八十治さまは私にそんなことをおっしゃるのですよ」
「……まつ……!」
まつの唇から、渇いた笑いが漏れる。
(兄さまがまつにそんなことを告げたのは私のせいだ。私はまた……!)
「ごめんなさい!! まつ!また私は余計なことを……!!」
あまりの申し訳なさに畳に伏した。
できるだけ姿勢を正し、額が畳に触れるくらい頭を下げ、土下座して詫びた。
けれどまつは私を見て、悲しくも微笑むの。
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