「……あらまあ。だいぶ塞ぎ込んでいるようですね」
ふいに声が聞こえて、そちらのほうへ顔を向ける。
いつのまにか、まつが部屋に来ていた。
手にした盆には、お茶とおむすびをのせている。
「ゆきさまが 食事もとらずにおられるからですよ。奥方さまがご心配なされておいでです」
まつの顔にいつもの笑みはなく、その視線は冷ややかだ。
――――あの日以来、まつは私から遠のいていた。
母さまが用事を言いつけでもしない限り、私に寄りつきもしなかったのに。
まつは私の前に盆を置く。
「さあ、奥方さまのためにも、ひとくちでも食べていただかないと」
「……いらない」
私がつっぱねると、まつは大仰なため息を落とした。
「ゆきさまは本当にいいご身分ですわね。足が痛い、気分がすぐれないと申せば、働かなくてよろしいんですもの」
「……!」
痛いところを突かれて、私はまつを睨んだ。
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