まつ―――ごめんなさい。
私やっぱり、何もできなかった。
まつの気持ちを知りながら、ただまつがこの屋敷から去るのを、何もできずに見ているだけなんて。
―――知らなかったの。
初めて知った気持ちだったから。
やさしい兄さまへの『大好き』とは違う、
『好き』。
兄さまへの『大好き』は、誰に憚ることなく堂々と言える。
けれど、利勝さまへのそれは。
心の中で 小さくつぶやくだけで、胸がキュッと締めつけられる。
誰にも言えない『好き』……。
その言葉を想うだけで、
利勝さまの声や、やりとりを思い出すだけで。
胸の奥が 甘く優しい気持ちに包まれる。
今の私には、その甘さだけで幸せで。
言葉を交わせるだけで充分で。
だから、誰かにこの恋を応援してほしいとか、
利勝さまからも、同じ想いがほしいとか。
この恋の行く末がどんなものになるのか、考えたことがなかったの。
……まつ、私も。私もね?恋をしたの。
決して知られてはいけない恋をしたの。
まつと同じ、叶わない恋を。
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