兄さまはさらに続ける。
「……それに。たとえお前が好いた相手に想いを告げようとも、その相手が困るだけだろう。
相手が想いを返してくれて、なおかつ両家の親が夫婦になることを認めてくれるなど、ないに等しいんだ。
……恋というものは、誰かに己の想いを打ち明けるものではなく、相手の幸せを切に願い、己の心のみにとどめ、忍ぶものだと俺は思う」
―――兄さまの言葉は。
その一言一言がとても重くて、私にはよくわからなかった。
ただわかったのは。
誰かを好きになっても、その想いを口にしてはいけないこと。
そしてその想いは、決して叶うことはない。
そこまで言い切って、兄さまはやっと眼差しを緩めて戸惑う表情を見せた。
そっと、兄さまの手が伸びてくる。
その手が涙で濡れた私の頬を、やさしく拭ってくれた。
私は泣いていた。
「馬鹿だな……。泣かせようと思って言ったんじゃない。
その時になって泣かないために言ったんだ……」
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