私をまっすぐに見据える兄さまの瞳は、迷いもなく ただ現実を見つめている。
兄さまは真面目なお方だ。
両親に仕えることを、至孝と考えられているお方。
そのお考えの前には、自身のいかなる感情をも消すおつもりなのだ。
兄さまは静かに、けれど厳しい口調で教え諭すようにおっしゃった。
「ゆき。お前にもよく言っておく。たとえもしお前が恋をしていたとしても、己の心内を口に出しては絶対にならぬ」
(え……!)
私も兄さまを見据える。
衝撃的な言葉に、何も考えられない。
ただただ どうして?と、その思いだけを視線にのせる。
兄さまは私から視線をそらさず、まっすぐ見つめて厳しいお顔で続けた。
「お前にだっていずれ、父上がよかれと思う相手を見つけてくるはずだ。その時つらいのはお前だぞ?
他に好いた相手がいると言い張れば、周りにも迷惑をかける。父上のお立場だってある。
それが良くない状況を招くことぐらい、わからぬお前ではないだろう?」
私達は、お父上さまや母さまには逆らえない。
縁談や養子など、自分にとっては青天の霹靂となることさえ、黙って従わなければならない。
この時代 武家において、子が親に逆らうことなど、決してあってはならないのだ。
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