―――行ってしまわれた。



 ふたりきりの時は、利勝さまに少し近づけた気がしたのに。



 やっぱり素っ気ない。

 でも 利勝さまらしい。



 姿が見えなくなっても、心に灯るあたたかさは消えない。


 私をいつも助けてくれる、あたたかな存在。





 「……私は謝りませんよ」



 水を入れた盥を手に持ち、まつが近寄ってきた。

 それに手拭いを浸して、私の血と泥で汚れた足を拭いてくれる。

 その顔は少し怒っていて、けして私を見ない。



 「ありがとう……まつ。それからごめんなさい……」



 まつを傷つけてばかりで。

 まつはいつも、私に良くしてくれたのに。



 「私……もう兄さまに心配かけたりしないわ。だから……」



 まつは私の顔を見ないまま、足に巻いていた手拭いもほどき、手際よく 傷の手当てもしてくれた。



 「これは膏薬だけでは無理かも知れませんね。
 お医者さまを呼んで、縫っていただかないと」

 「……まつ。怒ってるのに、どうして手当てまでしてくれるの?」

 「仕方ないでしょう。放っとく訳にもいかないですし」



 簡単な手当てが済むと、まつはさっさと立ち上がり、夕飯の仕度に戻る。


 それがまつの優しさだと、痛いほど伝わってくる。


 まつの背中を見つめながら、密かに心を決めた。



 ………私やっぱり。



 まつにこの家を去ってほしくない。