まつがそんな利勝さまに、水の入った碗と手拭いを差し出した。



 「永瀬さま。ゆきさまを連れてきてくださり、ありがとうございました」

 「……かたじけない」



 にこりと笑うまつに笑顔を返すことなく、利勝さまは碗を手に取り、いっきに飲み干した。



 「八十治を呼んできましょうか。雄治どの、ご一緒に夕飯を食べていかれませんか?」



 母さまがそうおっしゃると、利勝さまは軽くかぶりを振って返された。



 「いえ、あまり遅くなると家族に心配かけますので。私はこれで失礼します」



 利勝さまは母さまに深々と頭を下げたあと、私を一瞥して背を向けた。



 「……利勝さま!今日は本当にありがとうございました!」



 あわててお礼を述べると、



 「早く治せよ」



 それだけおっしゃって、やっぱり笑うことなく戸口を出ていく。



 ………本当に 素っ気ない。



 「気をつけてお帰りくださいね。くら子さまにくれぐれもよろしくお伝えくださいね」



 母さまが利勝さまを見送るため、後に続く。



 私もお見送りしたかったけれど、傷ついた足ではそれも叶わなかった。


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