「ゆきさまは、さき子さまのお屋敷へ忘れ物をしたのを思い出されて、それであわてて取りに行かれようとなさったんですよね?」



 土間からまつが言葉を差し挟んだ。
 そして私に確認するようにまっすぐ見つめてくる。

 一瞬驚いたけど、本当の理由なんてもちろん言えるわけないし。
 まつの目も、「言わないでください」と強く制している。

 少し考えて、まつの言葉に合わせた。



 「そ……そうなの!いただいた絵ロウソクを、さき子さまのお宅に忘れてしまって……!
 けれど向かっている途中で、転んでケガをしてしまって。
 動けなかった私を、たまたま通りかかった利勝さまが、ここまで背負ってきてくださったんです!」

 「―――……」



 土間に立ったままの利勝さまには、きっとお分かりになられたはず。

 私とまつが嘘をついていることを。


 私は利勝さまのお屋敷に伺うなんて、ひとことも言っていない。

 それにさっきの私は、とても忘れ物を取りにいく様子には見えなかった。


 けれど利勝さまは、腑に落ちない顔をしつつも、口をはさまずにいてくれた。